文月の前に

ちょうど一年前の今は部屋からも出られず、誰も信頼できず、唯一あやねちゃんにしか会えなかった。 かのじょはいつも、いいのいいのと言ってコーヒー代を払ってくれた。私はそれに甘えていた。よくわからない深夜のコンビニのバイトだけしていた。薬が二週間…

肺に

内緒は入れて 故郷の空気のようにもうどこにも出ることのない 息をするたびにふれるくらいで 少し混ざるくらいで

うつつ

朝に起きて同居人をみ送る、いってらっしゃい そのあとで沈む 何もできずにただ座って、気づいたら昼をとうに過ぎていた こんな季節があったことを思い出して苦しくなる、いつもなんのニュアンスも込めずにお話ししてくれるひとにラインをし、聞いてくれてあ…

ひさしく

かれが私の父へ贈る本を買っているあいだ、わたしは路駐監視員 カチカチカチカチ きづけばこんな処に居る 昨晩から左耳が聞こえない、いとしいひとの声 おどけた語尾のうわずり、鮮やかなしぐさをじつはあんまり見ていなかったこと。繰り返し 久しぶりの友人…